登山前にストレッチは必要?「やるかどうか」より「何をやるか」で差がつく
更新日:6 日前

はじめまして。
「好きなことを続ける身体ラボ」を運営しているゆかりです。
登山やバレーボールなど、好きなことを長く楽しむためには、
身体のメンテナンスが欠かせません。
このブログでは、ストレッチトレーナーとしての知識と、
私自身の体験をもとに、動きやすい身体づくりのヒントを発信しています。
はじめに
登山を初めて早4年。健康に関わる仕事をしていることもあり、 私は登山前には欠かさず下半身中心にストレッチをしていますが、周りを見ていると
ストレッチや準備運動をせずにいきなり歩き出している人が多いことに驚きます。
登山は、さまざまなスポーツと並べてみても、比較的ハードな運動です。
飛んだり跳ねたりこそしませんが、重たい荷物を背負っての長時間の歩行(しかもアップダウンが激しい)のため、思っている以上に負荷の高い運動です。
一説によると、ジョギングやサッカー、テニス、スキーと同等の運動強度とも言われています。

(出典:登山の運動生理学とトレーニング学/山本正嘉著)
にもかかわらず、ストレッチや準備運動をせずに登りはじめてしまう。
今回は、登山前に準備運動(ストレッチ)を行うメリットや、行わないことによるリスクやデメリットをお話しできたらと思います。
こんなお悩みありませんか?
下りの後半で膝が笑って、一歩ごとに慎重にならざるを得ない
登り始めの30分がやたらきつく、体が「起きる」まで時間がかかる
木の根や浮き石に、同じ日に何度もつまずく
翌日どころか翌々日まで太ももの筋肉痛が抜けない
大きな段差の乗り越えで、以前より脚が上がらなくなった気がする
下山後、脚より先に腰や肩が痛くなる
ひとつでも心当たりがあるなら、原因は体力でも年齢でもなく、登山口での10分の使い方かもしれません。
しかも厄介なことに、これらは「準備運動をサボった人」だけの悩みではありません。
**きちんとストレッチをしている人でも、内容が合っていなければ同じことが起こります**
むしろ、登山歴が長い人ほど昔ながらの手順が固定化していて、気づく機会がないことも多いのです。
【結論】登山前のストレッチは必要です!ただし「種類」を間違えると逆効果
結論から言うと、登山前のストレッチは必要です。ただし条件がひとつあります。
登山前にやるべきは動的ストレッチ(ダイナミックストレッチ)であって、
いわゆる「前屈してアキレス腱を伸ばす」ような静的ストレッチではない、ということです。
ここを取り違えると、良かれと思ってやった準備運動が、むしろその日のパフォーマンスを落とします。冒頭のお悩みが「ちゃんと準備しているのに解決しない」理由は、
たいていここにあります。
なぜ登山前にストレッチが必要なのか?
登山は、平地のウォーキングとは負荷の質がまるで違います。冒頭でお伝えした通り、
強度はジョギングやテニス、サッカーと同等とも言われています。
<登山場合>
段差の乗り越えで股関節を大きく屈曲・伸展させ続ける
不整地で足関節が絶えず予測不能な角度に振られる
ザックの重量が体幹と脊柱に持続的な負担をかける
下りでは大腿四頭筋が**エキセントリック収縮(伸張性収縮)**でブレーキをかけ続ける
つまり登山とは「大きな可動域を、不安定な足場で、長時間反復する運動」です。
可動域と神経系が起動していない状態でこれを始めれば、無理が出るのは当然です。
準備運動には、筋温を上げ、関節可動域を確保し、神経筋の連携を立ち上げるという
明確な役割があります。
推奨は動的ストレッチ──7〜10分が目安
動的ストレッチは、関節を反動なしに大きくゆっくり動かし、可動域全体を能動的に使う方法です。
期待できる効果は、筋温上昇、関節可動域の拡大、神経筋の賦活。
とある研究では、垂直跳びの高さが静的ストレッチでは低下したのに対し、動的ストレッチでは向上し、スプリントやジャンプでも急性のパフォーマンス改善が報告されています。
7〜10分の動的ウォームアップで下肢のパフォーマンスが有意に改善したというデータもあり、短すぎても長すぎても効果は目減りします。
登山前に静的ストレッチをすすめない理由
静的ストレッチ(同じ姿勢で伸ばして止める)は「危険」ではありませんが、運動直前という文脈では分が悪い。
83研究・2,012名を対象としたメタアナリシスでは、静的ストレッチによる最大筋力低下の効果量は、全体でES = −0.21。ただし1セットあたり60秒以上保持した場合は、ES = −0.84と、無視できない大きさになります。ジャンプ高でも60秒保持で−3.4%の低下が報告される一方、30秒では有意差なし。
要するに、「長く伸ばすほど筋発揮は落ちる」。
長時間の静的ストレッチは、筋腱の張力(バネとしての剛性)を一時的に下げ、力の伝達効率を落とします。急登の一歩目や、岩場での踏ん張りが必要な登山では、これは望ましくありません。
ただし短時間(30秒未満)なら悪影響はほぼ「取るに足らない」水準で、柔軟性確保のメリットもあります。
**「登山前に長く伸ばし込むのはやめる」**という理解が実務的です。
部位別・具体的な伸ばし方
では実際に登山前に実施するストレッチをご紹介します。
登山口で、ザックを背負う前に。各10回前後、左右均等にやるのがよいです。
① 股関節(最優先)
登山の質を最も左右する関節です。
レッグスイング(前後):木や岩に手を添え、片脚を前後に振る。可動域を毎回少しずつ広げる。腰は反らさず、動きは股関節から
レッグスイング(左右):同じ姿勢で脚を体の前を横切るように内外へ振る。内転筋・中臀筋にスイッチが入る
ヒップサークル:膝を持ち上げ、外→後ろへ円を描く(股関節外旋)。逆回しも。大股での段差越えが軽くなる
② 大腿前面・後面
ウォーキング・ニーハグ:一歩ごとに膝を抱えて胸へ引き寄せる。大臀筋とハムストリングスに効果あり
ウォーキング・ヒールキック:一歩ごとに踵を臀部へ。大腿四頭筋を「動かしながら」ほぐす
ワールドグレイテストストレッチ:深い前後開脚から、前脚側の肘を足の内側へ落とし、そのまま体幹を天井方向へ回旋。股関節・ハムストリングス・胸椎を一度に起動できる、費用対効果の高い一種目
※こちらは手をつけるような綺麗でかつ広い場所があるときにおすすめ。
③ 下腿・足関節
不整地での転倒予防に直結します。
カーフレイズ:踵の上げ下げを20回。下腿三頭筋のポンプ作用で血流も上がる
足首の回旋:つま先を接地したまま各方向へ10回ずつ。
捻挫予防に効くのは「静的な柔らかさ」より「動かせる範囲」
④ 体幹・胸椎・肩
ザックを背負うなら省略不可。
体幹の回旋:足を肩幅に開き、腕を脱力させて左右へツイスト
アームサークル:肩を前後に大きく回す。肩甲帯が固まったままザックを背負うと、行動中に肩・首の痛みが出やすい
ストレッチをしないことで起こりうるリスク
準備運動を省いた登山には、具体的なリスクがあります。
転倒・滑落のリスク上昇
警察庁の統計によると、令和6年(2024年)の山岳遭難3,357人の態様別内訳は、
道迷い30.4%に次いで転倒が20.0%(671人)、滑落が17.2%(577人)。
転倒と滑落だけで全体の37%を超えます。可動域が狭く反応も鈍い体で不整地に
入ることは、この数字の側に自分を寄せる行為です。
下山時の膝痛
登山者の膝痛の多くは関節そのものではなく、疲労で硬くなった大腿四頭筋に起因します。下りの伸張性収縮で微細な損傷が蓄積すると、膝がガクガクして力が入らなくなってきます。柔軟性を確保しないまま長い下りに入るのは、この現象を早める方向に働きます。
膝痛の仕組みと、家でできる対策は登山で膝が痛くなる本当の原因|「膝を鍛える」より先にやることがありますでくわしく解説しています。
パフォーマンス低下と筋肉痛の悪化
冷えた筋は出力が低く、疲労も早くなります。序盤のオーバーペースと相まって、
後半の失速や翌日以降の強い遅発性筋痛(いわゆる筋肉痛)につながります。
体調の異変に気づけない
見落とされがちですが、10分の動的ストレッチはその日の自分の状態を確認する時間でもあります。
「今日は右股関節が動かない」「妙に息が上がる」といったサインは、
動いてみて初めてわかる。計画を修正する最初の判断材料になります。
まとめ
**軽い有酸素運動**(その場足踏み・ゆっくり歩行)3分 — まず体温を上げる
**動的ストレッチ** 7分 — 股関節 → 大腿 → 下腿・足関節 → 体幹・肩
**最初の30分はあえてゆっくり歩く** — 歩行そのものが最良のウォームアップ
「準備運動は必要か」ではなく「冷えた体で不整地に入らない」。これが本質です。
長時間の静的ストレッチと反動をつける動きを登山前から外し、動的ストレッチに
置き換えるだけで、その日の登りやすさは確実に変わります。
なお、『下山後のストレッチ(静的ストレッチ)』については別の記事で詳しく解説します。
登山前と登山後では目的も方法も正反対で、ここを一緒くたにすると効果が出ません。
下山後のケアこそ翌日以降を左右する部分なので、そちらもぜひ読んでみてください。
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